フラワーアレンジメントの心理学

臨床心理士が心理学を用いてフラワーアレンジメント作品を提案していくブログ

フラワーアレンジメントと色彩

フラワーアレンジメントと色彩

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お花を用いたセラピーで,「色彩心理学」といった言葉を時々目にします。どうやら色が人のこころに与える影響のことを指していることが多いようで,例えば元気になりたい時は黄色が良いとか,気分を落ち着けたい時には緑が良いというように,色の作用をアレンジメントに取り入れる手法のようです。


さて,色がある特定の感情を喚起させるということは実験的・科学的に証明されていることなのでしょうか?確かに,ベッドカバーは真っ赤なものよりブルー系のものの方がよく眠れる気がしますし,ご飯が群青色よりは真っ白の方が食欲は出ると思います。そう考えると体験的には色と人のこころや行動には関係がありそうです。しかし,効果がありますよと断言するには証拠がほしいところです。そこで,少し調べてみました。

 

そもそも色彩心理学という心理学の分野は確立されているとは言い難く,色の効果などは,心理学で言うなら大きくは社会心理学という分野に位置づけられることが多いと思います。例えば消費者行動の心理学として,人の購買意欲を高める商品パッケージの色が研究されていたり,あるいは環境心理学の中で業務効率を上げる職場の色が研究されていたりという具合です。しかし,色と人のこころや行動との関係は心理学に限ったものではなく,ざっと見た中では感性工学,色彩学,芸術学の方がもしかしたら研究が多いような印象も受けました。最近のものでは例えば,2015年の日本感性工学論文誌(14巻2号)では,列車のシートの色が緑系か青系かで触感覚,リラックス感,そして利用したいという気持ちに差があるということが実験的に示されていました。2014年の日本味と匂学会誌(21巻3号)では,オレンジ風味の炭酸飲料に対する大学生の評価が飲料の色によって異なるということが実験的に示されていました。


では,心理学における色と感情の変化についてはどうでしょうか。赤い光の下では血圧と脈拍が上がり攻撃的な状態になる,青い光の下では血圧と脈拍は安定して平静な状態になるといった報告もあり,実験的な研究がないこともないです。しかし,色が特定の感情を喚起するという効果については,過去を遡っても十分研究がされているとは言い難いようです。そのため,この色のお花を使って穏やかなこころになりましょうというのは,あくまでも人の体験的な感覚によるところも大きいのかなあというのが今のところの感想です。しかし,リラックスした優しい気持ちになりたいなという時には真紅のバラや真っ白なカサブランカよりも,柔らかな薄いピンクのバラや細かな花びらの白いラナンキュラス,あるいは白黄の小花にグリーンなどが心地よいと実感します。 


色が感情に与える効果,実験する価値はありそうです。ひとまず,これまでの研究をさらに振り返って心理的に良い効果のあるお花の色やスタイルを考えてみたいと思います。