ライト・トーナス値
体の筋肉の緊張度を示すものにライト・トーナス値というものがあります。この測定には脳波や汗の分泌量が用いられるため,客観的な値として利用されます。筋肉が一番緩んでいる状態は「23」であり,数値が高い程,緊張度が高いことを意味します。ベージュ色のライト・トーナス値は23,つまり最も筋肉が緩んでいる状態をもたらすと考えられます。筋肉が緩んでいるとはつまりリラックスしている状態と言え,ベージュ色は人をリラックスさせる色と考えられます。
さて,ベージュ色のお花というのはあまり多くないので,ベージュに続きリラックスできると考えられる色を見てみると,ライト・トーナス値が「24」の青でした。そこで,今日は梅雨の時期であることもあり,青色のアジサイを用いてラウンド型のアレンジメントを作ってみました。
じめじめ鬱々としたこの季節,青色のお花を用いたアレンジメントでリラックスしてみると良いかもしれません。
フラワーアレンジメントと色彩
フラワーアレンジメントと色彩
お花を用いたセラピーで,「色彩心理学」といった言葉を時々目にします。どうやら色が人のこころに与える影響のことを指していることが多いようで,例えば元気になりたい時は黄色が良いとか,気分を落ち着けたい時には緑が良いというように,色の作用をアレンジメントに取り入れる手法のようです。
さて,色がある特定の感情を喚起させるということは実験的・科学的に証明されていることなのでしょうか?確かに,ベッドカバーは真っ赤なものよりブルー系のものの方がよく眠れる気がしますし,ご飯が群青色よりは真っ白の方が食欲は出ると思います。そう考えると体験的には色と人のこころや行動には関係がありそうです。しかし,効果がありますよと断言するには証拠がほしいところです。そこで,少し調べてみました。
そもそも色彩心理学という心理学の分野は確立されているとは言い難く,色の効果などは,心理学で言うなら大きくは社会心理学という分野に位置づけられることが多いと思います。例えば消費者行動の心理学として,人の購買意欲を高める商品パッケージの色が研究されていたり,あるいは環境心理学の中で業務効率を上げる職場の色が研究されていたりという具合です。しかし,色と人のこころや行動との関係は心理学に限ったものではなく,ざっと見た中では感性工学,色彩学,芸術学の方がもしかしたら研究が多いような印象も受けました。最近のものでは例えば,2015年の日本感性工学論文誌(14巻2号)では,列車のシートの色が緑系か青系かで触感覚,リラックス感,そして利用したいという気持ちに差があるということが実験的に示されていました。2014年の日本味と匂学会誌(21巻3号)では,オレンジ風味の炭酸飲料に対する大学生の評価が飲料の色によって異なるということが実験的に示されていました。
では,心理学における色と感情の変化についてはどうでしょうか。赤い光の下では血圧と脈拍が上がり攻撃的な状態になる,青い光の下では血圧と脈拍は安定して平静な状態になるといった報告もあり,実験的な研究がないこともないです。しかし,色が特定の感情を喚起するという効果については,過去を遡っても十分研究がされているとは言い難いようです。そのため,この色のお花を使って穏やかなこころになりましょうというのは,あくまでも人の体験的な感覚によるところも大きいのかなあというのが今のところの感想です。しかし,リラックスした優しい気持ちになりたいなという時には真紅のバラや真っ白なカサブランカよりも,柔らかな薄いピンクのバラや細かな花びらの白いラナンキュラス,あるいは白黄の小花にグリーンなどが心地よいと実感します。
色が感情に与える効果,実験する価値はありそうです。ひとまず,これまでの研究をさらに振り返って心理的に良い効果のあるお花の色やスタイルを考えてみたいと思います。
香りの心理学的効果
前回までは,フラワーアレンジメントの心理的効果として,生花を使ってアレンジメントを作った時とアーティフィシャルフラワーを使ってカゴバッグを作った時の両方に共通すると考えられたことについて書きました。今回は生花を使ったフラワーアレンジメントとアーティフィシャルフラワーを使ったフラワーアレンジメントの違いについて書きたいと思います。
生花を用いた時とアーティフィシャルフラワーを用いた時とで最も違いを感じたのは,お花の香りがあるかないかでした。お花の香りは嗅覚を通じて脳に送られます。感覚器官を通じて入ってくる外からの情報は通常,大脳に送られ,過去の経験によって処理されることになるのですが,この過程を通じて人はそれが何か,自分にとってどんな意味をもつのかなどを判断します。このように対象物がいかに把握されているかを科学的に研究するのは「知覚心理学」と呼ばれる心理学です。
嗅覚というのは生物にとって非常に大切なものです。例えば,生物は生命維持に必要な食べ物を見つけるために,また赤ちゃんがお母さんを認識するために,においを利用します。また食べ物の好き嫌いの一因にもにおいが影響しますが,その好き嫌いの判断には「感性」が働きます。心理学で「感性」は,「五感や身体感覚を通して得られた情報への直感的な印象,感情評価や断能力のこと」と定義されています。つまり,嗅覚を通してなにかのにおいを嗅ぐと感性が働き,そのにおいに対して好き嫌い,懐かしい感じ,あるいはホッとするなどの感情を経験することになります。そのため,生花を使ってアレンジメントする時は香りという刺激があることで働く感性があり,アーティフィシャルフラワーを使った時には感じられない感情を得られる可能性が考えられます。においや香りには好き嫌いがあると思いますので,自身の感性が「なんだか好き」や「安心する」と判断するお花,つまり自分にとって良い心理的効果が感じられるものを知っておくと役立つかもしれません。また,もし自分が好きだと思っていた香りをあまり心地よいと思えない時には,それをこころが知らせているなにかのサインとして受け止めることもできるかもしれません。
このように,生花を使うアレンジメントでは,いわばアロマテラピーの効果も同時に得ることができるという面でアーティフィシャルワラワーと違うと考えられました。余談ですが,この一連の比較を実験的(科学的)に行うには同じお花の種類で同じ形態の作品を作らなければいけません。この辺りについてはまた追々書きたいと思います。
フラワーアレンジメントとカタルシス
フラワーアレンジメントとカタルシス
フラワーアレンジメントとマインドフルネス
フラワーアレンジメントとマインドフルネス
フラワーアレンジメントがもたらす効果について,最近の自分の体験を通じて主観的に考えてみます。
先日,生花を使ったものとアーティフィシャルフラワーを使ったものを作りました。生花を使った方は2種のカーネーション,スターチス,そしてイタリアンルスカスを用いたアレンジメントです。もう一方は,アーティフィシャルフラワーを用いたカゴバックで,メインのお花はラナンキュラスとアジサイです。
さて,この二つを作る過程で経験した感情について考えてみます。
まず,共通点として,作っている際中に「集中して無になっていた」ことが挙げられます。どの花を使おうか,どの色を使おうか,どれをどこに配置しようかと思考を巡らし,出来上がりを想像しながらただひたすら作りました。その間,昨日の困った出来事や明日の仕事のことなど一切考えることはありませんでした。これは心理学でいうなら「マインドフルネス」の一種と考えられます。
「マインドフルネス」とは,簡単に言うなら「今のこの瞬間に注意を向けること」です。似ているものとしては,日本の「禅」や「瞑想」を想像してもらうと良いかもしれません。
例えば,日本マインドフルネス学会は「今,この瞬間の体験に意図的に意識を向け, 評価をせずに,とらわれのない状態で,ただ観ること」と定義して,“観る”については「見る,聞く,嗅ぐ,味わう,触れる,さらにそれらによって生じる心の働きをも観るという意味である」とも示しています。またこれは認知行動療法と呼ばれる心理療法の一種で,特にうつ病や不安障害に効果がるという科学的根拠も示されており,欧米でさかんに用いられている技法です。「今のこの瞬間に集中する」練習をして成功すれば,例えば,うつ病の人がネガティブな考えや気持ちに陥ったまま出られないでいる状態を救ったり,そのような状態を繰り返すことを予防することにつながると考えられています。
さて,フラワーアレンジメントに話を戻しますが,突然「禅」や「瞑想」をして「無になる」って難しいですよね。そんなことをしたら,私の場合,いろいろな悩みや心配ごとが頭を巡り巡って,むしろ抜け出せなくなってしまいそうです。そんなわけで,なにか目の前のことに集中する,つまりお花をどのように使って作品を作り上げようかと夢中になることで日頃の煩わしいことからひと時でも解放されるという意味で,フラワーアレンジメントにはセラピーの効果があると言えるのかもしれません。
一つ目の共通点で長くなってしまいました。
続きは次回に。
花がもたらす心理的効果
今週のお題「植物大好き」